奈良地方裁判所で、元首相安倍晋三氏の殺害容疑などで起訴された山上徹也被告の裁判員裁判が始まった。被告は初公判で容疑を認め、事件の背景に家族の宗教的苦難が浮上している。裁判は被告の生い立ちと動機を明らかにし、社会的な教訓を問うものとなるだろう。
2022年7月、奈良市で参議院選挙候補者の応援演説中に安倍晋三元首相を自作銃で射殺したとして、殺人などの罪に問われた山上徹也被告(41)の裁判員裁判が、奈良地方裁判所で10月30日から始まった。初公判で被告は「すべて事実です。自分がやったことに間違いありません」と容疑を全面的に認めた。
被告の母親は被告が小学校時代に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、総額1億円の献金により家庭が破産し、平穏な生活を失った。被告は「宗教二世」と呼ばれる立場で、教会への恨みを抱いていたという。弁護側は冒頭陳述で「被告が生まれ育った環境は児童虐待に該当する。量刑決定時に十分考慮すべきだ」と情状酌量を求めた。一方、検察側は「不幸な生い立ちは安倍氏とは全く関係がなく、被告の刑を大幅に軽くする理由にはならない」と反論した。
裁判は今後、ほぼ20回の公判を予定し、来年1月に判決が言い渡される。母親や宗教研究者らが証言する予定で、教会への恨みが安倍氏射殺に至った経緯が明らかにされる見込みだ。事件後、ネット上で被告の境遇に同情の声が上がり、2023年には和歌山県で岸田文雄首相に爆発物が投げられた事件が発生。容疑者は山上被告に関する情報をオンラインで集めていたとされる。
暴力はどんな理由があっても許されない。事件は選挙中の言論の自由を抑圧し、警備体制の見直しを促した。ネット上の誤情報、例えば被告が単独犯でないとか「本物の狙撃手」がいたとの主張も広がったが、裁判で真実が明らかになれば、これらを抑止できるだろう。また、教会信者の多額献金による家族の苦境を浮き彫りにし、宗教二世の子どもたちへの対応を社会に問うている。