MITの研究者らは、マルチスライス電子タイコグラフィーと呼ばれる手法を用い、リラクサー強誘電体の3D原子・極性構造を直接解明した。主要なシミュレーションによる予測よりも分極の微細構造が小さいことが明らかになり、将来のセンシング、コンピューティング、エネルギーデバイスの設計に用いられるモデルの改良に貢献する可能性がある。
リラクサー強誘電体は、超音波イメージング、マイクロホン、ソナーシステムなどの技術において数十年にわたって使用されてきたが、その特異な物性の原子スケールの起源を直接測定することは困難であった。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の材料科学者ジェームズ・ルボー(James LeBeau)氏率いるチームは、マルチスライス電子タイコグラフィー(MEP)と呼ばれる電子顕微鏡手法を用いて、リラクサー強誘電体の3D原子構造を世界で初めて直接解明したと報告した。この研究成果はMITニュースで報じられ、ScienceDailyによって配信された。いずれも、『サイエンス』誌に掲載された論文「Bridging experiment and theory of relaxor ferroelectrics with multislice electron ptychography」を引用している。
MITの報告によると、研究チームはセンサーやアクチュエーターなどの用途に使用されるリラクサー強誘電体「マグネシウムニオブ酸鉛・チタン酸鉛(PMN-PT)合金」を、高エネルギー電子のナノスケールプローブで走査し、各位置で回折パターンを測定した。隣接する測定値の重なりを利用することで、材料構造の3D再構成を行った。
MEPによる測定の結果、原子スケールから中間スケールに至る化学的・極性構造の階層性が明らかになった。さらに、分極の異なる領域の多くが、主要なシミュレーションによる予測よりもはるかに小さいことが判明した。研究チームは、この新たな実験データをコンピューターシミュレーションに組み込むことで、モデルの改良と観測結果との整合性の向上を図ったと述べている。
「正確に何が起きているのかがより深く理解できたことで、材料が目指すべき特性をより的確に予測し、設計できるようになるだろう」とルボー氏はMITのリリースで語った。
共同筆頭著者のマイケル・シュー(Michael Xu)氏とモンリン・チュー(Menglin Zhu)氏は、今回の実験により、従来のモデリングでは完全には捉えきれていなかった化学的無秩序も明らかになったと述べた。
MITが公表した著者リストには、MITのほか、アラバマ大学バーミンガム校、ライス大学、ペンシルベニア大学などの共同研究者が名を連ねている。
MITおよびScienceDailyは、この研究が米国陸軍調査研究所(U.S. Army Research Laboratory)および米国海軍研究局(U.S. Office of Naval Research)の支援を受けて行われ、MITの共用施設であるMIT.nanoが活用されたと伝えている。また、今回の成果は複雑な材料のモデルを検証・改良する手段として位置づけられており、将来的にはメモリストレージ、センシング、エネルギー技術への応用が期待されている。