ウィーン大学の物理学者チームが、量子もつれ光子とベル不等式の等価体を用いた実験を行い、量子事象における時間的順序の重ね合わせを実証した。その結果は古典物理学の予測から大きく逸脱しており、因果律の順序が確定しないことが量子力学の根本的な性質である可能性を示唆している。ただし、実験にはまだいくつかの抜け穴が残されている。
ウィーン大学の研究チームは、量子力学において因果律の順序、つまり「事象AがBの前に起こる」か「BがAの前に起こる」という順序が確定的なものではなく、確率的な重ね合わせの状態をとり得るかを検証する実験を考案した。実験では量子もつれ状態にある光子対を使用している。一方の光子は、その偏光状態に応じて操作Aの後にBを行うか、あるいはその逆の順序で操作を行う装置を通過する。その後、光子の経路を測定し、もう一方の光子の偏光を測定することで、最初の光子がどちらの順序で操作を受けたのかを特定する仕組みとなっている。チームは、本来量子もつれを検証するために用いられるベル不等式を、因果律の順序が不確定なシナリオにも適用できるよう調整した。測定の結果、古典的な隠れた変数理論に基づくベルの定理の予測値を標準偏差で18も上回る相関が確認され、時間的順序の重ね合わせが量子力学の本質的な特徴であることを強く裏付ける結果となった。有望な成果が得られた一方で、この実験には初期の量子もつれ実験と同様の限界も存在する。光子の損失により入力された光子の約1%しか検出できず、損失が特定のサブセットに偏っていた場合には、隠れた変数が存在する可能性が否定できないためである。また、この設定では光速以下の影響を排除するための十分な空間的隔絶が欠如しており、因果律の不確定性試験特有の課題も残されている。研究者らは、ノーベル賞を受賞した研究実績にならい、将来的な改善によってこれらの抜け穴を塞ぐことができると考えている。著者らは実用的な可能性について次のように強調している。「(本研究で使用された装置は)因果関係が確定したプロセスを上回る性能を示すことが明らかになっており、チャンネル識別、プロミス問題、通信複雑性、ノイズ軽減、熱力学的な応用、量子計測、量子鍵配送、量子もつれの生成および蒸留など、幅広いタスクへの応用が期待される」。この研究成果は「PRX Quantum」誌に掲載された。