東京の地球生命研究所(ELSI)の研究チームは、繰り返される凍結と融解が、地球初期における原始的な細胞様構造の成長と融合を促した可能性があることを実験で明らかにした。特定の脂質で作られた小胞は、こうしたサイクルの中でより大きな区画へと融合し、DNAをより効率的に保持した。この研究結果は、氷に覆われた環境が生命の起源に寄与したことを示唆している。
東京科学大学地球生命研究所(ELSI)の篠田達也氏率いる研究チームは、POPC、PLPC、DOPCという3種類のリン脂質を用いて、ラージユニラメラベシクル(LUV)を作製した。これらのモデル原始細胞は、太古の地球で有機分子を内包していた単純な区画を模したものである。研究者らは、地球初期の環境条件をシミュレートするため、これらを繰り返し凍結・融解するサイクルにさらした。篠田氏は「現代の細胞と化学構造が連続しており、前生物的条件下で存在し得た可能性が高く、必須成分を保持する能力があることから、膜成分としてホスファチジルコリン(PC)を使用しました」と説明する。3回のサイクル後、POPCを多く含む小胞は凝集したが完全な融合には至らなかったのに対し、PLPCやDOPCを含む小胞はより大きな構造へと融合した。PLPCの含有量が多いほど、融合は促進された。野田夏美氏は「氷結晶形成のストレス下では、膜が不安定化あるいは断片化し、融解時に構造の再編が必要となります。不飽和度が高いために膜の横方向の充填が緩やかであると、膜の再構築中に疎水性領域が露出しやすくなり、隣接する小胞との相互作用が促進され、エネルギー的に融合が有利になったと考えられます」と述べた。また、PLPC小胞は、サイクル前、そして特にサイクル後において、POPC小胞よりも効率的にDNAを捕捉・保持した。融合によって内容物の混合が可能となり、複雑な化学反応が実現した可能性がある。本研究は、従来の熱水噴出孔のような場所と同様に、凍結・融解を伴う氷環境が生命の揺りかごであったと提唱している。主任研究者の松浦友亮氏は「浸透圧や機械的な剪断といった分裂メカニズムを組み込むことで、凍結・融解によって成長した小胞の再帰的な選択が世代を超えて実現される可能性がある。分子の複雑さが増すにつれ、小胞内のシステム、すなわち遺伝子にコードされた機能が最終的に原始細胞の適応度を担うようになり、ダーウィン進化が可能な原始細胞の出現へとつながるだろう」と結論付けた。本研究の成果は『Chemical Science』に掲載されている。